無人島に楽譜を一つ

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仕事の都合で無人島に何年か飛ばされることになった。幸いピアノが一台置いてあるようだ(どんな仕事だ)。上司からは「一冊だけなら楽譜を持って行ってよい」と言われた。さあて、何を持っていくか。

これはもうバッハの「平均律 第1巻」でしょう。こう答えるピアノ弾きは多いはずだ。いろんな雰囲気の長調・短調の前奏曲とフーガが12キー。24+24で計48曲。高級お菓子の詰め合わせ。おもちゃ箱のようだ。ケーキの詰め合わせというより季節の和菓子の詰め合わせ。材料は砂糖と米と豆がメイン。そして、どれもしみじみと美しく、美味しい。

そのどれかをストリートピアノで弾いてみよう。

通りすがりの人が「おおっ!?」と振り返って足を止める曲ではない。ひょっとしたら誰も気がつかないかもしれない。

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では、一人で演奏してみよう。

仕事の合間に。洗濯の合間に。買い物に行く前に。

楽譜を広げて、一人、指の動きを確認する。音の響きを確認する。

わりと簡単な曲(Cメジャー プレリュード)もあれば難しい曲もある(というか難しい曲が多い)。簡単そうだな、と弾いてみたら指がつりそうになる曲もある(Dメジャー プレリュード)。

一つ一つ弾いて飽きない。スキマ時間につい楽譜を開いてつい練習してしまう。5分、10分、15分。ついつい時間が過ぎていく。じっくり独りの時間を過ごすのに最適な曲集。それがバッハの平均律曲集である。

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