ピアノはウソをつかない

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練習だってウソをつく。ウソをつくというか裏切る。練習しても上手くならないのである。参ったね。

練習に裏切られないためには、適切な練習を集中して行わなければならない。ふと気がつく「あ、惰性で弾いてるな」「これじゃ腕立て伏せと同じだ」。こんな練習は身につかない。いくらやっても上手くならない。

ゴルトベルク変奏曲を毎日義務で弾いてたら全然上手くなってないのである。それどころか嫌な気分がしてくる。曲が嫌いになりそうになったので練習を最低限にした。

練習を通じて曲を憎むようになって「もうこんな曲、弾けなくてもええわ!(逆ギレ)」となるのもピアノが続かない一般的な理由の一つではないか。難しいものである。

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前回の記事を書いてから「ウソ」が気になっている。

「ウソ」という言葉はネガティブな要素が強いので「ナラティブ」とか「物語」とかに言い換えてみる。僕の人生にだってナラティブがあるわけだ。自分にとっては「ファクトに基づいた真実のナラティブ」で生きる上で極めて重要なのだが、他人から見れば「あれ?そうだっけ?」であったり「ってか、わりどうでもいい」ナラティブである。

ファクトに忠実であろうとするナラティブは、実は息苦しくて楽しくない。だから人はワクワクするような楽しいナラティブを求める。クリエーター(作家、映画監督、画家等々)、政治家、宗教家は人に「素晴らしい」ナラティブを与えるのが仕事である。自身も「素晴らしい」ナラティブに生きているわけだが、気に入らない人からみれば非難や嘲笑の対象になる。「ネトウヨ」と「パヨク」の争いがそれだ。

トランプは「選挙は盗まれた」と主張していた。先の公聴会でそれがウソだったことが明らかとなった。トランプは何も根拠がないことを知りながら、周りに何度も静止されていたにも関わらず「選挙は盗まれた」とウソをついて大衆を扇動したのである。その結果アメリカの議会議事堂に暴徒が押しかけ死傷者も出た。しかし、未だにトランプの影響力は消えていない。相変わらず次期大統領の有力候補である。人はウソを付いている人でも支持できるのである。しかも熱狂的に。我が国だって例外ではなかった。

どうやらアメリカはとってもヤバイ国になりつつある。その主な要因の一つがTwitterやFacebookといったSNSである。議論が極端になり、政治が二極化し、極端な政治に巻き込まれて極端な事件が発生し、極端な法律が通っている。

ウソが人を動かすのは珍しいことではない。というか、むしろ人はウソで動く。ウソを「ナラティブ」に言い換えると飲み込みやすい。トランプは「選挙は盗まれた」ナラティブを生き、主張した。彼の支持者もまたそのナラティブを未だに生きている。地球温暖化もナラティブである。温暖化しているのは事実である。その原因が化石燃料であると科学的に証明されてはいないはずだ(念の為僕は陰謀論者ではないし石油石炭産業とも無関係。化石燃料は減らしていくのは正しいと思っている)。SDGsだってナラティブである。少し前を振り返れば「自民党をぶっこわす」小泉竹中改革だってナラティブであった。ぶっ壊されたのは氷河期世代の人生で、当然ながら今の少子化の原因の一つである。すなわち日本そのものも小泉竹中によって少なからずぶっ壊されたわけだ。竹中平蔵には未だに政治力がある。人材派遣業界の強力なバックアップと、自民党の無反省の産物であろう。アベノミクスしかり。トリクルダウン効果はなかったことが計測されても日本が貧しくなってもナラティブは生き続けている。当然世界の宗教だってナラティブである。すべてはナラティブである。ナラティブに比べるとファクトは実に非力だ。ファクトがナラティブを変えることは稀で、ナラティブがファクトを変えることはないが(そんなことが出来たら「ファクト」ではない)ファクトの解釈は容易に変えられる。ナラティブは強いのである。

結局何が正しいのかなんて、どうでもよいのである。トランプは大ウソつきだが、本人も彼の支持者も気にしない。少なくともトランプの経済政策はトランプ嫌いすらも評価していた。ウソつきでも正しいことをすることがある。何が正しかったか、それが分かるのは何年もあとだ。おそらく、関係者が生存しなくなってからである。吉田茂の評価が定まったのも、そんなに古い話ではないのではないか。評価が定まったというより、関心が薄れてだれも熱心に主張しなくなって、何となく落とし所がついただけか。

どうせファクトを示したところで人は都合の良い解釈しかしない。若いころは「目からウロコが落ち」て人生変わるような学びがあったが、年を取ってからそんな経験が本当に少なくなった。下手をすればがっかりすることや悲しくなる学びの方が多い。人間の愚かさとかね。

ウソも結構ではないか。心地よいナラティブとファクトを選択して生きて何が悪い。トランプ支持者を見てそんなことを思ったりもする。

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