リズムが正確だからといって、ジャズとして質が高いとは言えない。
むしろブレがあった方が人間味がある。意図的なレイドバック、アドリブの”溜め”、0.0何秒の遅れ、前のめりが味である。あるいは聴いていてロストするくらいのズレたリズムも楽しい。
しかしビル・エヴァンスのピアノは違う。異常にリズムが正確に聴こえるのだ。というか、正確なリズムへのこだわりというかな。「正確なのが当たり前だよ」というオブセッションすら感じる。
クラシックの素養がそうさせるのか?と思ったがそれだけじゃないだろう。ハービー・ハンコックのリズムはブレがある。味がある。
ビル・エヴァンスのソロは時としてリズム優先にも聴こえる。リズムに乗ってればいいでしょ。あとは私が好きにやってますから。独りで研究モードに入ってるというかな。観客置いてけぼりである。
ということは、ビル・エバンスの唯一のサービス精神が、正確なリズムとタッチなのではないか、そんな気もする。
なんてことを考えながら聴くビルのピアノは本当に不思議だ。何を考えているか分からない。楽しそうでもない。美の押し付けもないし、陶酔も感じられない。正確なリズムと、スケールとアルペジオの冷徹な組み合わせは、時として機械的とも思える。(ビル・エヴァンスのピアノを「リリシズム」と一言で片付ける人は、ろくにエヴァンスを聴いてないのでは、と疑う)
彼のリハーモナイズ(一般的に演奏されるコード進行の改変)も独特で癖がある。やはり冷徹な感じがするのだ。彼の内省的なサウンドは頭脳作業のBGMに適しているけれど、それが正しい扱い方とも思えないしね。
ビル・エヴァンスは間違いなく好きなピアニスト何だけど、この人のやりたいことは何なのだ?と聞かれるとうーむ、と頭をひねってしまう。僕にとってはどうにも困った立ち位置の「ピアノの巨人」なのだ。(やっぱり作業BGMに最適なんだよなあ)