映画には興味なかったのだけど、ジャズピアノが趣味でエヴァンスが好きならば行かざるを得まい。むしろなぜ興味がないのか?と聞かれそうだからね。
行ってよかった。どうしたって退屈な映画なはずなのに、不思議と退屈しなかったのはなぜだろう。インタビューイのおかげだろうか。遠回しにではあるが、エヴァンスの人柄と、彼が今でも畏敬され、かつて愛されていたのが伝わってきた。たくさんの人に迷惑を掛けて、ひどい死に方をしたにも関わらず。
あの時代の(特に超一流)ジャズミュージシャンは、大抵は人格や生活が破綻していた。エヴァンスもロクでもない生き方をしてロクでもない死に方をした。周りの人をたくさん傷つけて、最終的には「緩慢な自殺」で生涯を閉じた。「破天荒」とは違う。映画から伝わってきたのはエヴァンスの「弱さ」だ。ジャズという不確かなショービジネスの世界でトップランナーとして美を追求するためには、麻薬に頼らざるを得なかったのだろう。麻薬と美と音楽のみが彼にとってリアルなもので、それ以外の存在は(おそらく兄を除き)二次的なものに過ぎなかったのだ。実の息子さえも。
エヴァンスは間違いなく好きなジャズマンだが、今まで素直に「エヴァンスが好きです」とは言えなかった。いまいち理解に苦しむプレイが多いのだ。あまりにも冷徹だったり、リスナーを突き放していたり、孤高だったり。この人は何を考えているのだろうか。なぜこんな演奏になるのだろうか。コード進行も特徴的すぎる。確かに辻褄は合っているが、なぜそのコードで弾こうと思ったのか?と首をかしげてしまうのだ。
映画を見て、エヴァンスの音楽を少しだけ深く理解できるような気がした。彼の音楽は内省の極致だ。いわば「自分の弱さに対する外科手術」のようなものじゃないか、そんな風に思えた。
この映画を見終わった後で、エヴァンスの音楽が少しだけ違う風に聴こえてきたのだ。