Netflixのクールの誕生である。
重箱の隅を突くような「ジャズ衒学」的な作品ではない。ビル・エヴァンスやコルトレーンとの関係も深掘りしてない。マイルズについて調べてみようか、新しい知識を得たい、という観点で見ると物足りなさを感じるだろう。
当時のマイルズを知る人が、マイルズを語っている。それだけの映画である。それによって「ジャズの歴史としてのマイルズ」「ジャズ文化に多大な影響を与えた偉人マイルズ」ではなく、リアルで等身大の、人間臭いマイルズが炙り出される。酒と麻薬に溺れた、嫉妬深いマイルズを見た配偶者のフランシス・テイラーや、古くからの友人の言葉。
一つ身に染みたのがやはり黒人差別である。白人女性のためにタクシーを呼び止めたという親切行為を警官に咎められ(!)、それに楯突いたら殴られた(!)。しかも当時すでにマイルズは有名人であった(!)という日本人からすると訳のわからない、トンデモな事件である。インタビューに答えている人もほぼ黒人であったからか、アメリカの黒人差別というものが少し実感として伝わった気がする。やはり差別というものは実際に受けてみないとその痛みは分からないし、歴史的な差別となると日本人には理解が難しいのである。