ジャズが古びない理由

Spotifyで黒本のプレイリストを聴いていて気がついた。確かに古い演奏である。例えば50年代の演奏にはやはり50年代の雰囲気がある。しかし古臭さを感じない。今でも普通に気持ちよく聴ける。

バッハを聴くのと近い感覚だ。当時の時代性と現代性が共存しているのだ。一言でいえば時代を越えた普遍性だろうか。

若者が競って聴く対象ではないが、時おり誰かが聴いてしみじみ「ああ、こういうのもいいな」「今も新鮮だな」と思う。素敵である。

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古臭さとは具体的かつ直截に言えば「ダサい」「カッコ悪い」という直感である。邦楽、洋楽を問わず’80sやバブルの頃の大半の曲が該当するだろう。それ以前のダサい曲は、聴く機会すらなくなっている。

ジャズにそんな古臭さを感じない理由の一つは編成や楽器がシンプルだからではないかと思われた。

ベース、ドラム、ピアノ、管楽器の一本勝負。潔い。ストリングスやシンセサイザー、電子オルガン、電子ピアノなどが入るほど古臭くなる可能性が上がる。チャーリー・パーカー ウィズ・ストリングスがいい例だ。

ムード音楽チックな分厚いストリングスとハープのぴろぴろした前奏にパーカーの歌心たっぷり、軽やかなサックスがかぶさる。

笑っちゃうほどダサくないすかwww。演歌やヘンリー・マンシーニ単体のほうがマシだ。パーカーの演奏をここまでダサくできるのが逆に凄い。一応フォローしておくと、企画は理解できる。着眼点も意図もよい。結果的に非常にダサい作品となった。それだけの話しである。仕方ないのである。

よく覚えてる。昭和のジャズ批評でこのアルバムは「ジャズ入門に最適」「パーカーの歌心がよく分かる」などと名盤扱いされていた。小学生だか中学生の僕は”ジャズ評論家”を信じてこれを聴き「全然かっこよくないじゃん」「むしろダサい」と本当にがっかりした。30年以上前のティーン・エイジャー(僕)にとってもこのアルバムは既にダサかったのだ。

本当に”ジャズ評論家”がこれを素晴らしいと思ったのか。単に「ジャズが分からないやつにはこんなものでも与えておけ」と無責任に褒めただけなのではないか。僕が”評論家”に対して疑念を持ったのもこのアルバムを聴いてからである。

エレクトリック系で言えば、チック・コリアの”名盤”「Return to forever」(バンドじゃなくてアルバムね)あたりも際どい(Youtubeに適切なリンクがなかったので適宜各自でご確認下さい)。ギリギリ踏みとどまってるが微妙にヤバい雰囲気がある。というか、この辺りの’70sフュージョンは全面的に危うい。派生した日本の’80sフュージョンも消え去っている。(懐かしく親密な記憶があるのだが・・・

’50sのシンプルジャズは、その時代性をまといつつ”何か”を突き抜けて古典=クラシックとなった。しかし’70sフュージョンはどうやらその”何か”を突き抜けることに失敗しつつある。

電子楽器が本質的な理由ではないと思うが、何かの関連はあるに違いない。例えばスティーブ・ライヒは電子楽器でも突き抜けている。ま、突き抜けすぎにも程がある、という話だが。

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ビートルズ。

若い頃そこそこ聴いたし、4半世紀以上前の当時もそこまで古臭さは感じなかった。ただ、やはり当時の若者にも「ビートルズは悪くないけどちょっとダサい」という意見は少数派ではなかったように思う。どちらかというと洋楽マニアが聴く曲であった。

そして2022年の今。若者はほとんどビートルズなど聴かないし、今の僕が聴いてもやっぱり少し古臭くなった気がする。どうやら時代を突き抜けることに失敗したようだ。おそらくボブ・ディラン、ローリング・ストーンズも同じ運命を辿るだろう・・・。久しぶりに聞き返してそう思ってしまった。

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ジャズが古びないもう一つの理由、それはやはり即興性である。

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一つ一つの音に緊張感や、躍動感がある。たった一つの音にすら躍動感が宿るのが不思議である。

マイルスのミュート・トランペット。マイルスを聴いたことがあれば、すぐに思い出せるはずだ。あの音は深く脳に刻まれる。事前に決めて、練習した演奏ではないからこそ、いつでもその場の瞬間を深く切り裂き、脳の長期記憶に深く食い込むのである。

あるいはデクスター・ゴードンの酔っぱらいソロ。テンポすら怪しいメロメロアドリブだが、聴くたびに生き生きとよみがえるようだ。

微妙なのはビル・エヴァンスである。練習マニアだったせいだろう。あまりにジャストテンポで即興性が薄い。にも関わらず、ビル・エヴァンスは十分に時代を突き抜けている。それはアドリブ性というよりも曲全体の完成度によるところが大きい気がする。

練習を繰り返すと、フレーズが指の筋肉に宿ってしまう。ミスは激減するが、その副作用で演奏が無味乾燥になる。指の筋肉を使ってアドリブっぽく演奏しているジャズピアニストは、実は非常に多い。見分けるのは簡単だ。ジャストテンポのかっこいいスムースな速弾きはクリエイティビティというよりも指筋の産物である。(ちなみに「指筋アドリブ」を意識的に排除しているのがキースである)

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まあ理由は何であれ、ジャズの名盤を今でも楽しめるのはありがたいことだ。

楽器を練習するモチベーションにもなるというものだ。

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