これが純正律?Hilliard Ansemble

最近寝るときにはHilliard Ansembleのアルバムばかり聴いている。とにかく心地よいのである。聴いていて無になれる。脳髄を柔らかくマッサージされている感覚だ。

彼らが歌う曲は基本的には中世の聖歌である。僕には「中世の聖歌なんだろうな。グレゴリオとかなんとか?」という程度の認識しかない。アレンジは入っているのだろうか(引用したYoutubeではサックスを重ねているから原典ではありえないが)。時代によってバージョンなどあるのだろうか。よく分からない。何か大事なものを見落としながら聴いているのかもしれない。気が向いたら調べてみよう。

メロディはかなりシンプルである。睡眠導入だからモードや転調など特に意識して聴かない。あまりドラスティックな展開はない気がする。平行調(ex.ハ長調とイ短調)で切り替わるくらいだろうか?いわゆる「お辞儀」メロディである。即興じゃない方の「カデンツ」である。そのメロディも催眠導入では良い仕事をしてくれるのだが、なんと言っても心地よいのがハーモニーである。

ピアノで重ねるハーモニーとは完全に別物である。雑味の一切ない純粋なハーモニーだ。聴いてるだけで雑念が振り払われる。音楽の美とはこういうことか、と思う。平均律が濁った雑味だらけのシステムに思える。

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合唱だからこそのハーモニーである。昔たまにNHKで流れていた中学・高校の合唱コンクールの(最近聞かないのは少子化の影響だろうか)ハーモニーもピアノの和声よりは美しい。人は肉声で簡単に純正律が出せるのか。

20年ほど前にバイオリンを習っていた。フレットのないバイオリンでは純正律が弾ける。しかし、狙って出すのは事実上不可能だ、というようなことを先生が言っていた。「やれるもんならやってみろ」くらいの語調だったか。アンサンブルでは純正律ではなく平均律で安定して弾く方が大事、そんなことも言っていたような気がする。(定かな記憶ではない)

ピアノが入る室内楽では純正律は意味がないのは分かるが、弦楽X重奏曲でも平均律的なハーモニーしか聴かない気がする。いや、たまに「ハマった」ハーモニーを聴けることもあるが、必ずしも安定しない。なんといってもグレゴリオ聖歌の時代と比べると曲が複雑で難易度も高いのだろう。速いパッセージや複雑なハーモニーを、純正律でくり出すなど人間ワザではない。

考えてみれば、Aを440Hzとするか442Hzで音階は違ってくるはずで、人間にそこまで正しく音を狙えるはずはない。自在に純正律を歌えるには超人レベルの絶対音感が必要である。平均律と純正律を自在に歌い分けるなどありえない。

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とすれば、単純に「合唱は純正律、楽器は平均律」ということでもなさそうだ。「合唱では純正律で音を出せる」というより「シンプルな曲の合唱では相対的に『ハマる』ハーモニーを出しやすい」というのが正確なのだろう。

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にしてもHilliard Ensembleのハーモニーの素晴らしさは頭抜けている。

SpotifyでHilliard Ensembleをナニゲに聴いていて「あれ?和声が濁った?」と思ってプレイリストを確認すると、別のグループに切り替わっていたりする。彼らが純正律的ハーモニーに相当こだわって作り上げている証である。

しかもオートチューンやデジタル加工のない時代から徹底しているから素晴らしいよね。「オレ騙されてない」と安心して身を委ねることができる。加工されるとやっぱりシラケるからね。

今何となくSpotifyのサジェストに従って中世の音楽を聴いているのだが意外と純正律ハーモニーの美しさにこだわっているグループは少ない気がする。Hilliard Ensembleは出色のグループなのである。

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※ その後いくつか純正律で歌う楽団を発見した。Hilliard Ensembleだけじゃないのだ。当然。

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