ドライブ・マイ・カーを見た

 

高校生の頃から村上作品を愛読している。しかし(だから)映画「ノルウェイの」森は見なかった。僕なりにイメージが確立している作品である。他人がこしらえた映像を見たら拒否反応が出るかもしれない。ギャップを楽しむつもりもない。のちの評判をたまに見かける。申し訳ないけどやはり見なくて正解だったと思う。

ドライブ・マイ・カーは評判になる前から「どうれ、見てみるか」とは思っていた。原作の「女のいない男たち」はさほど読み込んでいない。正直いって村上短編集としてはレベル中という印象である。思い入れもない。「木野」は悪くないもののその他は基本的にはどれも村上らしい「そのまま放り出された白昼夢」である。細かい構成や完成度をどうこう評価するべき作品でもなく、雰囲気を楽しめるかどうか。村上自身も「なんだこれは?」と思いながら上梓したのでは、と疑う。(悪口ではない。村上短編群が醸す玉石混交具合が僕は大好きなのだ)

海外の評価が高いと聞こえてきた。「村上春樹リスペクトの御祝儀でも入ってるかな」と失礼ながら勝手に思い込んで見る気を削がれた。ひねくれ者である。でもまあ、これは流石に見ないと後悔するかと思って先日見た。

結論から言うと、とても良かった。

濱口監督が村上春樹的パーツを組み合わせ村上ライクでありながら別の世界観を組み上げている。例えるなら断片的なピアノ曲の小編をアレンジして一つのしっとりしたシンフォニーに作り上げたと言えるだろう。

原作にはない広島の演劇祭とチェーホフを軸にして再構成されているのに、そこかしこに村上春樹の雰囲気を感じる。見事である。村上短編を一つの映画にするなら確かにこれしか手はなかったかもしれない、と思う。

上映時間が長いのも当然である。元々が異様で断片的な白昼夢だから、まとめ上げるためには時間が必要なのだ。

役者も良かった。岡田将生が凄かった。霧島れいか、三浦透子、もちろん西島秀俊も良かったし、脇役も良かった。全体に簡単に泣き喚く「感情失禁」演技が少ないのが僕には非常に気に入った。監督の指導であろう。感情を抑えた演技、俳優のアップを多用するあたり小津オマージュもあるのかもしれない。(僕はそこまで映画マニアではないが)

良い映画を見た。

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